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東京高等裁判所 昭和57年(行コ)224号 判決

控訴人(原告) 三里塚芝山連合空港反対同盟 外一名

被控訴人(被告) 運輸大臣 国

主文

本件控訴をいずれも棄却する。

控訴費用は控訴人らの負担とする。

事実

一  控訴人ら訴訟代理人は、本件控訴に基づき、「〈1〉原判決を取り消す。〈2〉原判決中、被控訴人運輸大臣が、控訴人らに対してした原判決添付目録記載の物件に係る同目録記載の処分の取消請求に関する部分を、千葉地方裁判所に差し戻す。〈3〉被控訴人国は、控訴人らに対し、金三〇〇万円及びこれに対する昭和五三年五月一六日から完済まで年五分の割合による金員、並びに右同日から〈2〉記載の処分が失効するまで一か月金二〇万円の割合による金員を支払え。〈4〉訴訟費用は第一、二審とも被控訴人らの負担とする。」との判決と、右〈3〉についての仮執行の宣言を求め、当審における訴えの追加的変更に基づく新請求として、「〈1〉被控訴人運輸大臣が、控訴人らに対してした別紙目録(本判決添付のもの)記載の物件に係る同目録記載の処分は、これを取り消す。〈2〉右新請求についての訴訟費用は被控訴人運輸大臣の負担とする。」との判決を求め、なお、右新請求は従前の請求と共に当審における審理判断を求めるものであり、千葉地方裁判所に移送を求める意思はないと述べた。

被控訴人ら指定代理人は、本件控訴について控訴棄却の判決を求め、控訴人らの当審における訴えの追加的変更の申立てに対し、変更不許の決定を求めた。

二  当事者双方の主張は、以下のとおり付加するほか、原判決の事実摘示と同じ(ただし、原判決七丁表二行目の「恣意的」の次に「な」を加え、同裏九行目の「当時の」を「立法段階における」と改める。)であるから、これを引用する。

1  控訴人らの主張

(一)  (本件処分の適法性に関する被控訴人らの主張に対する認否等)

引用にかかる原判決事実摘示第二・三・5・(三)記載の被控訴人ら主張事実中、(1)は認める。同(2)において被控訴人らが主張する看板や「解放」の記載は、反対同盟、革労協の政治的意思を、本件工作物の存在とは関係なく、レトリカルに表明したものにすぎない。次に、同(3)については、本件工作物に出入りした者のうち、氏名が特定できる者は二名だけで、各一回出入りをしたにすぎず、その検挙歴は緊急措置法成立よりかなり以前のものである。また、同(4)の「武闘訓練」、「突撃訓練」なるものは全くの一過性の行為にすぎず、同(5)のヘルメツト着用、竹竿の保管は、集団示威行進に通常用いられるものである。

(二)  (本件処分の取消しを求める訴えの適法性について)

本件処分には形式的に「昭和五四年五月一五日まで」との期限が付されていたが、被控訴人運輸大臣は、昭和五四年以降、発出要件の存否についての特段の調査をすることもなく、毎年五月ごろ、本件処分と同一内容の期間を一年に限つた処分を発令することにより、控訴人らに対し、本件処分の発出時から今日に至るまで間断なく本件工作物使用禁止の拘束力を及ぼしているものであり、このような経過と実態に照らし考えるならば、昭和五四年以降の右各処分は本件処分の更新にほかならず、基本的行政処分たる本件処分は更新を重ねて現在に至り、なおも控訴人らに対し制約を及ぼしているのであるから、前記期限の経過により本件処分が失効したといえないことが明らかである。そのうえ、控訴人らには、本件処分の違法性が確定されることにより、将来、同一の条件のもとで同一内容の行政処分が発出されないことを期待し得る具体的な利益があり、抗告訴訟の予防的機能の見地からも、本件処分取消しの訴えの利益が肯認されるべきである。

更に、右取消しの訴えの利益は行政事件訴訟法九条かつこ書きの規定からも肯認されるべきものである。すなわち、控訴人らは、新東京国際空港の建設によつて生計の本拠を奪われ、重大な被害を被るため、生存権と環境権に基づき、右空港建設の阻止を目的とする運動を推進してきたものであり、この運動は広範な人々の共感と支援に支えられ、全国住民運動の中心的地歩を占めるに至つているものであるにもかかわらず、被控訴人らはこれを圧殺するために緊急措置法を制定し、右運動に「暴力主義的破壊活動」などとのレツテルをはつて控訴人らの名誉を毀損し、また、本件処分の発出を通じて、本件工作物には「暴力主義的破壊活動者」などという無法者が「集合」しているかのごとく宣言をし、控訴人らの名誉信用を毀損し、前記運動に打撃を与えたものであり、これにより毀損された控訴人らの名誉信用等を回復するためには、本件処分取消しの訴えに勝訴し、本件処分の違憲・違法性を公権的に確定するほか、方法がないのである。

なお、右訴えが適法かどうかの判断にあたつては、この種訴訟の審理には一年を超える期間を要する現実も無視されるべきではない。

(三)  (緊急措置法の違憲性について)

緊急措置法一条には、同法は「新東京国際空港及びその機能に関連する施設の設置及び管理の安全の確保を図るとともに、航空の安全に資することを目的とする」ものである旨がうたわれているが、同法による人権の制約は、右目的を達成するための手段として、必要にして合理的、かつ、やむを得ないものであるということはできず、同法は全体として違憲無効であると断ぜざるを得ない。すなわち、同法は、「暴力主義的破壊活動等」、「暴力主義的破壊活動者」という文言をその中核的概念として設定しているが、右「暴力主義的破壊活動等」は、同法の定義規定上(二条一項)、住居侵入罪、威力業務妨害罪、器物損壊罪などの刑法上の軽微犯罪までを含む極めて広汎なものであり、右のような軽微犯罪と「暴力主義的破壊活動」という概念は不つりあいであつて、同概念を著しく拡大するものである。また、「暴力主義的破壊活動者」は、右「暴力主義的破壊活動等」を前提概念とし、「暴力主義的破壊活動等を行い、又は行うおそれがある者」と定義されている(同法二条二項)が、「おそれ」なる文言は、不明確で、認定者の恣意を許し、濫用の危険のある概念である。しかるに、同法三条一項一号は、右各概念の不明確性、広汎性を無視し、運輸大臣が「工作物」を「多数の暴力主義的破壊活動者の集合の用」に供することを禁止できる旨規定するが、何名位の者がどのような目的で、いかなる行為をした場合に右規定による禁止命令に抵触するかが不明確であり、結局は前記立法の目的とかかわりのない広汎な行動をも一律に禁止する結果となり、市民的権利としての居住権、集会権、財産権等の侵害を不可避的にもたらすことが明らかであり、右禁止命令は、同立法目的達成のために合理的な手段であるとはとうてい言いがたいばかりでなく、他の「工作物」において、前記空港の安全に危害を加えようと活動することが可能であるから、同禁止命令により右立法目的を達成することはできないものといわざるを得ない。

(四)  (当審における訴えの追加的変更の許容性と新請求の請求原因について)

別紙記載のとおり。

2  被控訴人らの主張

(一)  (控訴人らの主張(二)について)

被控訴人運輸大臣が、本件工作物について、昭和五四年以降毎年五月ごろ、一年の期間を限つて、緊急措置法三条一項一号に基づく供用禁止命令を発したことは認めるが、控訴人らの主張(二)のうち、その余の点はすべて争う。

(二)  (控訴人らの主張(三)について)

控訴人らの主張(三)はすべて争う。

(三)  (当審における訴えの追加的変更について)

控訴人らの当審における訴えの追加的変更は、以下の理由により許されないものというべきである。

(1) 控訴人らの右追加的変更に基づく新請求は、被控訴人運輸大臣が昭和六〇年五月一〇日付でした本件工作物についての緊急措置法三条一項一号に基づく供用禁止命令の取消しを求めるものであつて、行政事件訴訟に該当するが、民事訴訟に行政事件訴訟を併合することは、両訴訟が民訴法二二七条にいう「同種ノ訴訟手続ニ依ル場合」にあたらないため許容されないので、右新請求は、従前の請求のうち、民事訴訟たる損害賠償請求に併合することはできず、行政事件訴訟たる本件処分の取消請求に併合審理するほかはない。しかしながら、取消訴訟にその関連請求が併合されるためには、その取消訴訟が適法でなければならないものと解されるところ、本件処分取消請求に係る訴えが不適法であることは明らかであるから、これに前記新請求を追加的に併合することはできず、結局、控訴人らの訴えの変更は許されないものといわざるを得ない。

(2) 一般に、取消訴訟が高等裁判所(控訴審)に係属中に、その関連請求に係る訴えを併合提起するには、右関連請求に係る訴えの被告の同意を要するものであり(行政事件訴訟法一九条一項後段、一六条二項)、このことは訴え変更の手続による場合も同様に解すべきところ、被控訴人運輸大臣は控訴人らの訴えの追加的変更に不同意であるから、右変更は許されないものである。

(3) 前記追加的変更は、従前の請求についての訴訟手続が控訴審の最終段階に至つてはじめて申立てられたものであるところ、これが許容された場合には、被控訴人運輸大臣において新請求に関する追加的な主張・立証を余儀なくされ、控訴人らに対しても反論・反証の機会を与える必要が生ずる可能性があり、その審理の終結に至るまでには相当期間を要するものと考えられる。したがつて、右訴えの変更は、訴訟手続を著しく遅滞させるものであり、行政事件訴訟法一九条二項、民訴法二三二条一項但書により、許されないものといわなければならない。

三  証拠関係〈省略〉

理由

一  当裁判所も、控訴人らの本件処分取消請求に係る訴えは不適法として却下すべきものであり、本件処分により被つた損害の賠償を求める請求は理由がないものとして棄却を免れない、と判断する。そして、その理由は、左記1のとおり加除訂正し、同2の説示を追加するほか、原判決理由一ないし三の説示と同一であるから、これをここに引用する。

1  (加除訂正)

(一)  原判決二二丁表一行目の「のであり、」を「ものではあるが、」と改める。

(二)  同二二丁表末行の「暴力主義的」から同裏一行目の「考えるならば、」までを削除し、二二丁裏二行目の「右のような」を「緊急措置法二条一項、二項所定の」と、一〇行目の「に関連して」を「等のために」と、各訂正する。

(三)  同二三丁表八行目の「をすることに関連して」を「等を行う目的で」と改める。

(四)  同二三丁裏七行目の「に関連して」を「等のために」と、二四丁表七行目の「(者)について」から八行目の「要件」までを「者についての定義とその具体的要件を定めており、右定義規定に照らすと、同法三条一項一号の要件が不明確である」と、各訂正する。

(五)  同二五丁表三行目の「ものであり、」の次に「この観点に照らすと、」を加え、四行目の「立入る」から六行目の「配慮としては」までを「立入るには裁判官の発布した令状を必要とするとまでは解しがたく、人権に対する配慮として、」と、一〇行目の「いるので」から一一行目の「解せられる。」までを「いることをも斟酌すると、」と、各訂正する。

(六)  同二七丁表末行の「に関連して」を「等のために」と訂正し、同裏三行目の「(なお、」から四行目の「自認している。)」までを削除し、五行目の「余地はない。」を「余地はなく、控訴人らがその主張のような事由による精神的苦痛を感じたとしても、右説示に係る本件処分の趣旨・内容に鑑みると、その精神的苦痛と本件処分との相当因果関係は、これを肯認しがたいものといわざるを得ない。のみならず、本件処分が違法といえないことについては後記説示(追加説示)のとおりである。」と改める。

2  (追加説示)

(一)  本件処分取消訴訟の訴えの利益について

控訴人らは、本件処分に付された期限は形式的なものであり、実質的には本件処分が今なお控訴人らを制約している旨主張するが、緊急措置法三条一項に基づく供用禁止命令が、同命令に付された期限の経過により当然に失効することは、同条項の規定上明らかであるばかりでなく、控訴人ら主張の昭和五四年以降の各処分と本件処分との実質的同一性(前者は、後者に付された期限を更新するだけの実質を有するにすぎないこと)を肯認すべき資料はないから、本件処分が今なお機能していることを前提とする控訴人らの主張は理由がない。次に、控訴人らは、将来における同種処分予防の見地から、本件処分の取消しを求める具体的利益がある旨を主張するが、行政処分の取消訴訟は予防訴訟的機能を予定するものではなく、右主張に係る「具体的利益」をもつて、本件処分の取消しを求めるについての法律上の利益と認めることはできない。また更に、控訴人らは、本件処分により毀損された控訴人らの名誉・信用を回復するためには、取消訴訟によりその違法性を公権的に確定させるほか方法がない旨を主張するが、右名誉・信用の侵害は、国家賠償法上の損害賠償請求訴訟により救済を求めることができ、かつ、これをもつて足りるものと解するのが相当であり、現に控訴人らはその趣旨の訴訟(本件の損害賠償請求訴訟)を提起しているのである。そして、他に、控訴人らが本件処分の取消しによつて回復すべき法律上の利益を有することを首肯すべき事実関係ないし法律関係はこれを認めがたいところ、控訴人ら主張に係る訴訟審理の現実をもつて、右法律上の利益を肯認することもできないものというべきである。

(二)  緊急措置法の合憲性について

(1) 公知というべき事実に弁論の全趣旨を総合すれば、緊急措置法制定の経緯として、引用にかかる原判決の事実摘示第二・三・5・(一)の被控訴人らの主張のうち、(1)ないし(3)の事実(ただし、(2)の冒頭部分を除く。)が認められるところ、この事実及び前記認定(引用の原判決理由一の冒頭部分)の緊急措置法の立法目的に、更に弁論の全趣旨を総合すると、新東京国際空港と、その機能に関連する施設の設置及び管理の安全確保、並びに航空の安全の確保については、国家的・社会経済的・公益的見地からの強い要請があり、緊急措置法は、このことを前提とし、右認定の昭和五三年三月二六日の出来事に象徴的にみられるような同空港周辺の異常な事態に対処し、前記安全の確保を図るため制定された特殊緊急な法律であることが明らかである。

(2) ところで、緊急措置法にいう「暴力主義的破壊活動等」は、その要件・内容を詳細に定める定義規定(二条一項)から明らかなとおり、いろいろな該当行為をふくむ広い概念ではあるが、(1)に説示した同法の特殊性、すなわち、立法の経緯と目的に照らし考えれば、憲法上の諸原理に即しつつ前記認定の異常な事態に対処し、その目的を達成するためのものとして、右のような内容をもつ概念を設定したことについては十分な合理性を肯認できるものといわざるを得ない。また、同法にいう「暴力主義的破壊活動者」は、その定義規定上(二条二項)、「暴力主義的破壊活動等を行うおそれがあると認められる者」を含むものであるが、かかる概念を設定することは右立法の経緯及び立法目的に照らしその合理性を肯認できるし、同法の法意に照らし、「暴力主義的破壊活動を行うおそれがあると認められる者」とは、「暴力主義的破壊活動を行う具体的危険性の存することが、具体的事実関係に即し明らかに認められる者」を意味するものと解されるから、この見地からすれば「暴力主義的破壊活動者」という文言は、所論のごとく不明確な概念であるものとはいいがたい。次に、同法三条一項一号にいう「多数の暴力主義的破壊活動者」の「多数」については、右同様、緊急措置法の立法の経緯、目的、並びにその全体の法意に照らし考えると、それは、「暴力主義的破壊活動等」によつて、新東京国際空港とその施設の設置及び管理の安全、並びにその周辺における航空機の航行の安全を阻害ないし妨害する具体的危険性を生じさせることが具体的事実関係に即して明らかに認められる程度の人数を指称するものと解されるので、これも所論のごとく不明確な概念であるものとはいいがたい。してみると、右各概念が広汎かつ不明確であることを前提に、緊急措置法が全体として違憲無効である旨を論ずる控訴人らの主張は採用できない。

(3) 次に、控訴人らは、緊急措置法三条一項一号が、憲法二一条一項、二二条一項、二項の各規定に違反する旨を主張する。しかしながら、憲法二一条一項、二二条一項所定の集会の自由、居住の自由といえども全く無制限のものではなく、公共の福祉に反する場合には、公共の福祉の要請と調和する合理的な範囲内で、制限することを許さないものではないと解すべきであり、また、公共の福祉の要請から財産権の行使について法律で合理的な規制を加えることを憲法が当然に容認し、予定していることは、同法二九条一項、二項の規定自体に徴し明らかである。しかるところ、前記(1)に認定説示した点に照らすと、新東京国際空港と、その機能に関連する施設の設置、並びに管理及び航空の安全の確保を図ることは、公共の福祉の見地から強く要請されるところであり、緊急措置法制定の経緯からみて、同空港と関連施設の設置及びその安全を阻害若しくは妨害する行為を規制する高度の必要性があつたことは明白であり、同法三条一項一号の供用禁止命令が右のような行為を避けるための手段として、必要にして、合理的、かつ、やむを得ないものであることは容易に首肯できるから、控訴人らの前記違憲の主張は理由がないものというべきである。

(4) また、控訴人らは、緊急措置法三条一項一号が憲法三一条に違反する旨を主張するところ、同条による法定手続の保障は、本来、刑事手続に関するものではあるが、行政手続においてもできる限りその精神が尊重されるべきは当然といわねばならない。しかしながら、刑事手続と行政手続とはその性質におのずからの差異があり、行政手続の場合には、行政処分によつて制約を受ける国民の権利の内容及び制約の程度、行政処分によつて達しようとする公共の福祉の度合い、行政処分の緊急性及び処分要件の明白性の有無など、諸般の事情を総合参酌し、必要にして合理的、かつ、相当な手続を踏めば足り、すべての行政手続につき法定手続の保障が絶対的に要請されるわけのものではない。そこで、この見地に立つて、緊急措置法三条一項一号による財産権制約の程度・態様、同号その他、同法に基づく行政処分によつて達しようとする公共の福祉の度合い、及びその緊急性の程度などを総合して考慮すると、同号の禁止命令を発するにつき、告知、弁解、防禦の機会が被処分者に与えられないとしても、そのことが憲法三一条(ないしはその精神)に違反するものとはとうてい認めがたいものというべきである。

(5) そして、加除訂正のうえさきに引用した原判決理由一の説示に、右(1)ないし(4)の説示を加えると、緊急措置法若しくは同法三条一項一号に関する控訴人らの違憲の主張は、すべて理由がなく、採用の余地はないものといわざるを得ない。

(三)  本件処分の適法性について

引用にかかる原判決事実摘示第二・三・5・(三)記載の本件処分の適法性に関する被控訴人らの主張事実中、(1)の点は当事者間に争いがなく、(2)ないし(5)の点は、いずれも成立に争いのない甲第二四ないし第二八号証、いずれも弁論の全趣旨に徴し成立の真正、又は原本の存在と成立の真正を認め得る乙第七、第一〇(写)、第一一(写)号証、並びに弁論の全趣旨(右の点についての被控訴人らの主張に対する控訴人らの認否の態様も含む。)により、すべてこれを認定することができるところ、右事実に、緊急措置法制定の経緯に関する前記認定事実を総合すれば、本件処分発令の時点において、本件工作物は革労協に所属ないし同調する「多数の暴力主義的破壊活動者の集合の用」に供されるおそれがあつたことを肯認できるものというべきであり、右認定判断を左右するに足りる資料はない。してみると、被控訴人運輸大臣のした本件処分は、緊急措置法三条一項一号の要件を充足した適法なものということができる。

二  次に、控訴人らは、当審において行政事件訴訟法一九条二項に基づき、民事訴訟法二三二条の規定の例による訴えの追加的変更を申立てたが、被控訴人らは、右訴えの変更が許されない旨を主張し、変更不許の決定を求めるので、この点について検討するに、被控訴人運輸大臣が、昭和五四年以降毎年五月ごろ、それぞれ一年の期間を限つて、緊急措置法三条一項一号に基づく本件工作物に対する供用禁止命令を発したことは当事者間に争いがないところ、前記追加的変更に基づく控訴人らの新請求は、昭和六〇年五月一〇日に発せられた右禁止命令(以下「六〇年度処分」という。)の取消しを求めるものであるが、従前の各請求にかかわる本件処分と六〇年度処分との間には、六回の前記供用禁止命令が介在し、ほぼ七年の年月が経過しているのであるから、それら禁止命令の介在と年月の経過に伴い、本件処分当時における同処分要件を構成する基礎的事実関係と、昭和六〇年度処分当時における右事実関係との間には相当程度の変化が生じていることは当然に予想できるものといわざるを得ない。そうすると、本件処分と六〇年度処分がいずれも緊急措置法三条一項一号に基づく本件工作物についての供用禁止命令であるというだけでは、従前の各請求訴訟と六〇年度処分取消訴訟の請求の基礎が同一であるとはにわかに断じがたいばかりでなく、六〇年度処分が適法かどうかを判断するためには、当事者双方において更に主張・立証を尽す必要があり、その審理になお相当期間を要することが予想されるところ、前記訴えの変更は、従前の各請求についての当審における審理がすでに最終段階に至つてはじめて申立てられたものであることが本件記録上明らかであるから、右変更は訴訟手続を著しく遅滞させるものといわなければならない。

したがつて、控訴人らの前記訴えの追加的変更は、被控訴人ら主張のその余の論拠について判断するまでもなく、許されないものというべきである。なお、右変更の許容性に関する控訴人らの主張は、本件処分と六〇年度処分との実質的同一性を前提とするものであるが、その前提を首肯しがたいことは前記一・2・(一)に説示したとおりであるから、右許容性に関する主張も採用することができない。

三  以上の次第で、控訴人らの本件処分取消請求に係る訴えを却下し、損害賠償請求を棄却した原判決は相当であつて、本件控訴は理由がない。

よつて、本件控訴をいずれも棄却し、控訴人ら申立てに係る当審における訴えの追加的変更についてはこれを許さないこととし、控訴費用の負担につき行政事件訴訟法七条、民事訴訟法九五条、八九条、九三条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 後藤静思 奥平守男 尾方滋)

(別紙)

第一請求の原因

一 当事者

1 控訴人らは、千葉県成田市木の根東台二一五所在のプレハブ二階建の建物一棟及び木造平屋建の建物一棟並びに木造高さ一二メートルのヤグラ一基(以下本件工作物という)の所有者及び管理者であり、本件工作物を、居住、宿泊及び新東京国際空港建設反対運動の集会のための事務連絡等に使用していたものである。

2 被控訴人運輸大臣は、新東京国際空港の安全確保に関する緊急措置法(以下「緊急措置法」という。なお、単に「本法」又は「同法」ということがある。)第三条第一項により、建築物その他の工作物について、その工作物を同項各号の用に供することを禁止することを命ずる権限を有するものとされている。

二 本件処分の存在

被控訴人運輸大臣は、昭和六〇年五月一〇日、本件工作物の所有者及び管理者である控訴人らに対し、本件工作物を緊急措置法第三条第一項第一号又は第二号の用に供することを禁止する旨の命令(以下「本件処分」という。)を発した。

三 本件処分の取消しを求める理由

1 緊急措置法の違憲性

(1) 緊急措置法は、法制定の経緯、態様に照らして拙速を免れず、法全体として違憲無効であるが、本件処分の根拠となつた同法第三条第一項は、以下に述べるとおり、憲法第二一条第一項、第二二条第一項、第二九条第一項及び第二項、第三一条、第三五条に各違反するものである。したがつて、かかる違憲の立法である緊急措置法を根拠とする本件処分も違憲無効なものである。

(2) (憲法第二一条第一項違反)

緊急措置法第三条第一項は、その第一号において、「多数の暴力主義的破壊活動者の集合の用」に供され、又は供されるおそれがあると認められるときを、当該工作物の使用禁止命令発動の一つの要件としている。このように「集合」を要件としていることは、単に工作物の効用、価値の具体化としての使用収益権の侵害を超えて、憲法第二一条第一項に定める集会の自由の保障に反するものである。

(3) (憲法第二二条第一項違反)

緊急措置法第三条第一項第一号は、「多数の暴力主義的破壊活動者の集合の用」と定め、同項第三号は、「(前略)暴力主義的破壊活動者による妨害の用」と定める。これらは、現に各建物に居住している者の居住をも制限する適用を可能にするものであり、そうだとすればそれは憲法第二二条第一項で定める居住の自由を侵すことになる。

(4) (憲法第二九条第一項及び第二項違反)

憲法第二九条第一項は、「財産権はこれを侵してはならない。」と、同条第二項は、「財産権の内容は公共の福祉に適合するやうに、法律でこれを定める。」とそれぞれ規定し、財産権を制限するためには、公共の福祉の要請と法律による定めの二条件の存在を要求している。

緊急措置法第三条第一項は、所有者の物件の使用を制限するものであり、また、同法第三条第六及び第八項は、運輸大臣が工作物の除去、封鎖等の措置をとりうることを定めており、いずれも財産権の制限を規定の内容としているが、その制限の理由には何ら合理性がなく、制限を正当化するための公共の福祉の要請は存しないものである。また、同法は、「暴力主義的破壊活動(者)」(第三条第一項第一ないし三号)、「妨害の用」(同項第三号)、「供されるおそれ」(同項本文)といつた不明確な要件の認定を運輸大臣に包括的に委任するもので、法律による定めとはいえない。

したがつて、本件第三条第一項は、憲法第二九条第一項及び第二項に違反するものである。

(5) (憲法第三一条違反)

憲法第三一条の適正手続の保障は、刑事手続に限らず、行政手続にも要請されるものである。緊急措置法は、工作物の所有者等に対し、供用禁止命令を発し(第三条第一項)、その違反に対し刑事罰を課し(第九条第一項)、また、工作物の封鎖・除去の処分をも定めている(第三条第六項、第八項)。しかるに同法は、これらの財産権等の基本的人権に対する侵害処分について、工作物の所有者、管理者、占有者に対して告知、弁解、防禦の機会を与える規定を欠くものであり、適正手続の保障がなく、憲法第三一条に違反する。

また、前項後段に主張したとおり、同法第三条第一項においては、運輸大臣の認定基準が著しく恣意的、一般的であつて、これは明確性を欠き、構成要件をあいまいにするもので、この点からも憲法第三一条に違反する。

(6) (憲法第三五条違反)

憲法第三五条は、住居の不可侵と捜索・押収に対する保障を定める。同条も刑事手続に限らず、行政手続にも適用されるものである。しかるに、緊急措置法第三条第一項の供用禁止命令は、同条第三項の工作物への立入りの規定と相まつて住居の不可侵を侵し、令状によらない捜索を許すもので、いずれも憲法第三五条に違反する。

2 本件処分の違法性

かりに緊急措置法が憲法に違反しないとしても、本件処分は同法第三条第一項第一号、第二号の要件を充足しないのにかかわらず発せられた違法なものである。

第二訴変更の要件(民事訴訟法第二三二条第一項)に関する主張

1 本件処分は、従来の請求の趣旨に含まれる処分の内容と全く同一であり、単に従来の処分が昭和六〇年五月一五日をもつて期限到来により失効するため、これを更新し効力を延長するため発せられたもので、この点において請求の基礎に変更はない。

2 また、本件処分は、従来の請求の趣旨に含まれる処分の期間延長の性質を有するだけの処分であるので、証拠調べ等について、特段の新たな手続を別に必要とすることはなく、従来の請求の趣旨に含まれる処分の審理手続の中に含まれて審理することができるものであり、訴変更によつて著しく訴訟手続を遅滞させることはない。

よつて訴変更を阻害する要件は存在しない。

以上

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